「なんであの時見つけてくれなかったの!」
今でもこのセリフを仰った患者さんの顔を覚えています。その方はALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病でした。
数か月前に娘さんからご紹介を頂いたお父さんが来院されました。主訴は脇の痛み。ですが、問診をして脈や舌や身体の情報を取っていくうちに、「脇の痛みより内臓の問題があるので一度病院で検査を受けてください」とお伝えしました。
この方はきつい貧血ときつい足のむくみ、疲れやすい状態があったんです。
娘さんにも「これはおかしいから絶対病院連れて行ってね」とお伝えしていたのですが、頑固なお父さんでなかなか病院にいかれず、一度お手紙で病院に行くように再度お伝えしたところやっとお盆に病院に行かれました。
結果。大腸がんでした。
まだ詳しい検査はしてみないとわからないみたいですが、今のところまだ発見が早いほうだったみたいでちょっとホッとしました。
僕は腎臓系の問題かと思っていましたが、今問診表を見返すと下痢便もあるのでもう少し広い視点で見たほうがよかったかもしれません。
もう一人、最近記憶力が悪くなっていると来院された方がいます。舌があまり良く動かせない時があるということもあり、僕はラクナ梗塞を疑い脳外科の受診をご提案しました(この方はラクナ梗塞の可能性は低いですが念のため)。もしかしたら、それが気に障ったのか二回目の受診は今のところございませんが、でも僕は今一度葉書で再度脳外科の受診をご提案しています。
うちに来なくてもいいから病院で検査を受けてみて。何事もなかったら「あー、よかった」で済むんだからと思っています。
鍼灸師は今では皆さん肩こり腰痛を治す人と思っていますが、本来はジェネラリスト(総合医)なんです。では現在においても鍼灸師がジェネラリストであるためにはどうすればいいのでしょうか。
ある鍼灸師や漢方薬剤師が「西洋医学の知識なんかいらない。その分東洋医学を勉強してればいいのだ」と言っていましたが、僕はこれではいつまでたっても信頼される医療にはなり得ないと思います。
まずはやはり大前提として西洋医学的な知識を持っておくことが大事です。もちろん全ての疾患による症状を網羅することはできませんが、最低限バイタルサインの異常や関連痛の関与の有無、消耗性疾患の特徴などは知っておくべきだと思います。
その次に東洋医学としての診立てをきっちりできることがあげられます。やはり難病疾患の場合は東洋医学でいうところの逆証(自分には治療出来ない病)であることが多いです。従って治療をしたときに本来起こるはずの脈の変化やその他所見の変化が乏しい場合は改めて西洋医学的にも東洋医学的にも何か見落としがないかチェックして、病院の受診をご提案します。
冒頭の患者さんですが、最初に来られた時は腕の痛みを主訴に来られていたんです。まだ僕も鍼を持って3年目くらいの頃でした。で、治らずに離れていかれたのですが、その1年後ALSとわかって再度漢方クリニック(当時は漢方クリニックで診療していました)を受診され、治療に当たることになりました。でも、やはりALSは難しく徐々に衰えていきました。で、その衰えていく途中に「なんであの時(初診の時に)見つけてくれなかったの!」と叱られたわけです。
残念ながら力及ばず亡くなられました。もっと末梢の筋肉量の低下を見極めていれば違った結果になったかもしれません。
伝統鍼灸一滴庵を開業してからも、足のむくみで来られていた患者さんの腎不全を見落としていたこともありました。会うたびにニコニコと笑顔で対応してくれますが、本当に責められても仕方ないと思いますし、この方の家族には本当に申し訳ないことをしたと思っています。
このような申し訳ない思いはしたくありません。もちろん100%見落とさずに行けるかというと無理だと思いますが、その可能性を出来るだけ少なくしたいと思いますし、医療を医学を名乗る以上その責任を持って行動すべきだと思います。その上で自分が信じる東洋医学の治療を全うできるようにしたいですね。癌を治せる治療院に。難病を治せる治療院に。
Nさんの癌が本当に早期がんで簡単に処置できることを願っております。
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