大阪市北区にある漢方医学や東洋医学の知識を用いて不妊治療・胃腸・肩こり・腰痛の悩みを得意とする鍼灸院です。東洋医学の見地だけでなく西洋医学の知識からでもアプローチをしています。

2025/4/29 15:39

不眠で悩む患者さんの涙|鍼灸の“治神”がもたらした変化

私自身、現在は毎週木曜日に専門学校の付属鍼灸院で、学生たちの臨床指導を担当しています。
そこでは、一般の患者さんに対して学生が鍼灸施術を行う中で、施術の監督・技術指導、患者さんへのフォローアップを行っています。

臨床指導の場では、ただ技術を教えるだけでなく、「目の前の患者さんにどれだけ心を寄せられるか」という姿勢も大切に伝えています。
いくら施術が上手でも、患者さんの声に耳を傾けられなければ、本当の意味でのケアとは言えないからです。


副作用による不眠に悩む患者さんへのケア

正気の虚から邪気の実へ:体力回復のサイン

先日、昨年から通院されている患者さんのケースで、改めて「寄り添う」ことの大切さを実感しました。
この方は、病院で大きな病気の治療を受けており、副作用による不眠のケアを学生臨床で担当していました。

問診を進める中で、以前は体力が落ち、正気(せいき)の虚=体力がないために眠れない状態だったのが、最近では邪気(じゃき)の実=体力が回復してきた分、エネルギーが停滞して眠れない状態へと変化していることがわかりました。

これを根拠に「段々と元気になってきていますよ。良い傾向ですね!」とお声がけしたところ、患者さんは涙をぽろぽろと流されました。

「良かった。去年は本当に辛かったから……」
そんなふうに話してくださった彼女の涙は、これからもっと元気になるための希望の涙だったと私は感じています。

涙を流す女性

 

鍼灸における心へのアプローチの重要性

黄帝内経に学ぶ「先ず神を治す」

鍼灸の古典である『黄帝内経(こうていだいけい)』には、「凡刺之真,必先治神(刺鍼の要諦は、まず精神を安定させること)」という言葉があります。
これは単なる技術だけでなく、患者さんの心に寄り添うことが治療効果を高めると説いています。

もちろん、カウンセリングのような専門技術を必ずしも求めるわけではありません。
声掛けひとつ、仕草ひとつでも、患者さんの気持ちは大きく変わり、前向きに治療に向かうことができるのです。

ただし、大切なのは、無責任に「良くなっていますよ」と言うことではありません
「舌の状態がこう変化している」
「脈がこうなっている」
「症状の訴えがこれだけ減っている」
といった明確な根拠をもって「良くなってきています」と伝えることが大切です。ここを取り違えてしまうと患者さんの信頼を失うケースや、他の医療機関の信頼を損なう可能性も出てきます。

教える中で改めて気づかされたこと

今回の経験を通じて改めて思ったのは、確かな知識と患者さんを思う気持ちの両方を育て続けることが大切だということ。
これからも学びを深め、より良い施術を提供していきたいと強く心に刻みました。

鍼灸師として、目の前の患者さん一人ひとりにしっかりと向き合い、支えられる存在でありたいと願っていますし、このことを学生にもきちんと伝えていきたいと思いました。

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