『黄帝内経・霊枢』の中にみる不眠(目不瞑)

つづいて『黄帝内経・霊枢』から不眠(不寐)について抜き出してみましょう。

不眠の原因を東洋医学ではどうとらえるか?
不眠の原因を東洋医学ではどうとらえるか?その2

前回と同様にそのまま不寐という記載はなく、「目不瞑」という言葉で記載されています。目をつぶることができないという意味ですね。

『霊枢・営衛生会篇第十八』
黄帝曰,老人之不夜瞑者,何気使然。少壮之人,不昼瞑者,何気使然。 岐伯答曰,壮者之気血盛,其肌肉滑,気道通,営衛之行不失其常,故昼精而夜瞑。老者之気血衰,其肌肉枯,気道渋,五蔵之気相搏,其営気衰少,而衛気内伐,故昼不精,夜不瞑
(黄帝曰く、老人の夜瞑せざるもの、何の気か然らしめる。少壮の人、昼瞑せざるもの、何の気か然らしむ。岐伯答えて曰く、壮なるものの気血盛んにして、其の肌肉滑し、気道通じ、営衛の行、其の状を失わず、故に昼精にして夜瞑す。老者の気血衰え、その肌肉枯れ、気道渋り、五臓の気相搏ち、その営気衰少し、衛気内に伐つ、故に昼精ならずして夜瞑せず。)

営衛生会篇では衛気と営気という二種類の気の働きによって目がぱっちりと開くか閉じることができるかを説明しています。営衛の詳しい話はこの後にも続くのですが、営衛がしっかりと働くと営衛の流れは正常で昼間はしっかりと目が開き、夜は目を閉じることができるといっていますね。で、老人になると気血が衰えることで営気が衰え、衛気が内に入って争い調和しなくなり、昼はボーっとして、夜は眠らないという状態になりますと言っています。

 

『霊枢・邪客篇第七十一』
黄帝問于伯高曰、夫邪気之客人也、或令人目不瞑不臥出者、何気使然。伯高曰、五穀入于胃也、其糟粕津液宗気分為三隧。故宗気積于胸中、出於喉嚨、以貫心脈、而行呼吸焉。営気者、泌其津液、注之於脈、化以為血、以栄四末、内注五蔵六府、以応刻数焉。衛気者、出其悍気之慓疾、而先行於四末分肉皮膚之間、而不休者也。昼日行於陽、夜行於陰、常従足少陰之分間、行於五蔵六府。今厥気客於五蔵六府、則衛気独衛其外、行於陽、不得入於陰、行於陽則陽気盛、陽気盛、則陽蹻陥、不得入於陰、陰虚、故目不瞑
(黄帝伯高に問いて曰く、邪気の人に客するや、或いは人をして目瞑せず臥出せしむるもの、何の気か然らしむる。伯高曰く、五穀胃に入るなり、その糟粕津液宗気分かれて三隧となる。故に宗気は胸中に積み、喉嚨に出て、以て心脈を貫き、而して呼吸を行う。営気は津液を泌し、これを脈に注ぎ、化を以て血と為し、以て四末を栄え、内五蔵六府に注ぎ、以て刻数に応ず。衛気はその悍気の慓疾なるより出、而して四末の分肉皮膚の間、而して休まざるなり。昼日は陽を巡り、夜は陰を巡り、常に足の少陰の分間より五蔵六府を行く。今厥気が五臓六腑に客せば、衛気は独りその外を衛り、陽を行き、陰に入るを得ず、陽を行れば則ち陽気盛んに、陽気盛んなれば則ち陽蹻陥(満)ち、陰に入るを得ず、陰虚す。故に目瞑せず。)

少し長いですが、営気と衛気の説明も文脈の中にあるので引用しています。営衛生会でもありましたが、霊枢では眠りを営衛の動きで捉えています。衛気が夜に陰に入れなかった場合、陽気が陽蹻脈に満ちて、衛気がさらに陰分に入れないため陰が虚して眠れなくなります。同じような文言は霊枢大惑篇第八十にも出てきます。

ちなみに眠りに関しては衛気が関わると言いました。その衛気が通る道に陽蹻脈や陰蹻脈という奇経が関わってきます。

『霊枢・寒熱病篇第二十一』
陰蹻陽蹻、陰陽相交、陽入陰、陰出陽、交于目鋭眥、陽気盛則瞋目、陰気盛則瞑目
(陰蹻陽蹻は陰陽相交わり、陽は陰に入り、陰は陽に出、目の鋭眥に交わり、陽気盛なれば瞋目し、陰気盛んなれば目瞑し)

陽蹻脈や陰蹻脈は目にある晴明穴で交わっているため陽気が盛んになり陽蹻脈が満ちると目がぱっちりと開き、陰気が盛んで陰蹻脈が満ちると目を瞑るようになるわけです。

 

霊枢の中の不眠(不目瞑)の原因まとめ

霊枢の中では不眠は営衛のバランス、陰陽蹻脈のバランスによって陰気や陽気の偏りが出ることによって出現するということが記載されています。特に眠りのメカニズムを詳しく記載しているので逆説的に眠れないという状態を診ることもできますね。

そして、ここでは詳しく触れませんでしたが、大惑篇では腸胃が大きいと多眠になり、腸胃が小さいと眠りが短くなるということも書かれており、素問からの腸胃と不眠の関わりも指摘されていたりします(ここでは衛気を通じてですが)。面白いですね。

参考文献
石田秀実監訳『現代語訳・黄帝内経霊枢』東洋学術出版社
渋江抽斎『霊枢講義』オリエント出版社